梅野健 情报学研究科教授、大久保健一 同博士課程学生(現:公立諏訪東京理科大学講師)らの研究グループは、可逆なシステムにおいて時間の矢を持つのは何故かを明らかにする具体的な物理モデルを構成することに成功しました。一般に時間反転対称性という性質を持つシステムの不可逆性を示すことは、時間反転対称性を持つミクロなニュートン力学から熱力学第二法則というマクロな不可逆性の起源は何かを問う19世紀後半のボルツマンによる統計力学創設以来の、物理学の未解決問題(時間の矢の問題)の一つでした。本研究グループは、AIアルゴリズムでも使われている時間反転対称性を保ったまま時間の離散化をする2次のシンプレクティック数値積分法(リープフロッグ法)を用いて時間反転対称性を持つ物理モデルを構成し、あるパラメータの条件で、そのモデルから導出できる力学系が唯一の平衡状態(物理的測度)に収束するという性質を持つアナソフ性という性質を持つことを証明しました。このアナソフ性により、唯一の平衡状態に収束するという意味で不可逆性を厳密に証明することになります。今までビリヤードや負曲率の多様体上の測地線といった系のみにおいてこのアナソフ性が示されてきましたが、今回の様に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーからなる普遍的な形式を持つ系から導出される力学系のカオス性(アナソフ性)を証明したのは初めてです。この結果は、今後、AI?機械学習における時間の矢の問題という新しい問題を数理的に解き明かし、更には21世紀以降の次世代AIにおけるより効率的なカオス?サンプリング法を考案するヒントになると期待されます。
本研究成果は、2025年7月1日に、国际学术誌「颁丑补辞蝉」にオンライン掲载されました。

「今回の论文では、闭じたトーラス上の具体的ハミルトン系から导かれたシンプレクティック写像がアノソフ写像であることを証明し、尝别产别蝉驳耻别测度が唯一の平衡测度?唯一の厂搁叠测度?物理测度となることを示せました。この成果をもとに、时间の矢の问题に関する研究をより深めていきたいと考えています。」(大久保健一)