地球コアに多くの水素が存在 -地球誕生時に大量の水-

地球コアに多くの水素が存在 -地球誕生時に大量の水-

2014年1月17日

 土山明 理学研究科教授、三宅亮 同准教授、野村龍一 東京工業大学地球生命研究所博士課程後期学生(理工学研究科)、廣瀬敬 同教授らの研究グループは、高輝度光科学研究センター、海洋研究開発機構と共同で、地球コアに大量の水素が存在することを突き止めました。このことは、惑星形成時に地球は大量の水(海水の80倍)を獲得しましたが、その大部分がコアに取り込まれたことを意味します。

 同研究グループは、マントル物质を地球深部に相当する超高圧?超高温环境下に置いた后、融解の痕跡の有无を大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8(スプリングエイト)にて确认することにより、コア直上のマントルの融解温度は约3,600ケルビンであることを明らかにしました。マントル最下部は固体であるため、コア最上部の温度はそれ以下でなくてはなりません。これは、従来の见积りよりも少なくとも400ケルビン低いことになります。一方、そのような低い温度で、コア(外核)は液体でなければなりません。それには外核に水素が重量にして0.6%(原子数换算で25%)程度含まれている必要があります。このような大量の水素は、地球形成期にマグマオーシャン中で金属鉄中に取り込まれた可能性が高いと考えられます。今回推定されたコア中の水素量は、水に换算すると地球全质量の1.6%(海水の约80倍)にあたり、地球はその形成时に大量の水を获得していたことがわかります。今后のさらなる研究により、地球以外の天体の金属コアの组成、地球の水の起源、さらには太阳系外惑星の海水量推定などが大きく进むと期待されます。

 今回の成果は、米科学誌「サイエンス」に掲載されました(「サイエンス エクスプレス」にて1月17日(日本時間)にオンラインで先行出版)。

背景

 地球は深さ2,900办尘を境に、岩石で构成されるマントルと鉄合金で构成される液体コア(外核)に分けられています。下部マントルは固体であることから、マントル物质の融解温度は下部マントルの温度に上限を与えます。さらに、マントル直下に位置する外核の温度もそれ以下である必要があります。一方、外核は液体であるため、その温度はコア物质の融解温度よりも高い必要があります。鉄合金の融解温度はその不纯物组成に大きく依存することが知られており、外核の温度はその化学组成を制约します。このように、マントル物质の融解温度を知ることは、地球深部の温度构造および化学组成の推定に大きな役割を果たします。しかしながら、融け始めの温度を超高圧下で决定することが技术的に困难であったため、マントルの融解温度はこれまで过大评価されていました。

成果

 本研究グループは、これまでレーザー加热式ダイアモンドアンビルセル(図1)を用いた超高圧?超高温実験技术の开発を精力的に进めてきました。この技术を利用して、マントル最下部层の主要鉱物ポストペロフスカイト相の発见、地球中心环境下における鉄の结晶构造の决定など、高圧地球科学の分野で大きな成果を挙げてきました。


図1:超高圧発生用ダイアモンドアンビル装置

マントル物质を二つのダイアの间に挟み、超高圧下でレーザーを照射することにより超高温を発生させる。

 今回、同研究グループの超高圧超高温発生技术と大型放射光施设厂笔谤颈苍驳-8の高辉度齿线を利用した高解像度マイクロトモグラフィー(颁罢)撮像技术を组み合わせることにより、融解时に见られる特徴的な构造を微小试料内部に観察することに成功しました(図2)。これにより、超高圧下における少量の融解液の形成を确认可能となり、マントル全域にわたって正确な融解温度(融解が始まる温度、ソリダス温度)の决定に成功しました。


図2:高圧高温実験后に得られた、试料内部の齿线颁罢画像

左の画像で明るい部分は、マントル物质が部分融解して出来たメルトを示す。部分融解液は酸化鉄に富むため、7办别痴と8办别痴(キロ电子ボルト)の二つのエネルギーの齿线で撮像した二つの画像のコントラストが大きい。酸化鉄に富む部分の有无で、试料が融解していた(左)か、していなかった(右)か判断できる。スケール(白い棒)は5ミクロン

 その结果、マントルの底におけるソリダス温度は约3,600ケルビンと、过去の研究よりも600ケルビン以上低いことが明らかになりました(図3)。また、マントル最下部は固体であるため(地震学からマントルの底に液体の存在が示唆されていますが、その存在はきわめて局所的であり、マントル中の低融点物质に起因すると考えられています)、コア最上部の温度も3,600ケルビン以下である必要があります。これは従来のコア温度の推定値より少なくとも400ケルビン低いことになります。


図3:地球内部の温度分布(黒)とマントル?コア物质の融解温度

マントルは固体であるため、今回决定されたマントル物质の融解温度(緑)はコア最上部の温度の上限を与える。外核が液体であるには、大量の水素がコアに含まれている必要がある。

 一方、外核は液体であるため、外核最上部の融解温度は3,600ケルビン以下でなくてはなりません。纯鉄の融解温度はコア最上部でおよそ4,200ケルビンです。すなわち外核中に不纯物が存在することによって、その融解温度は600ケルビン以上下がっていることがわかります(地震学的観测から、外核の密度は鉄ニッケル合金の密度より10%程度小さいことがわかっているため、多くの軽元素を不纯物として含んでいるとされています)。そのような大きな融点降下は、硫黄や酸素では期待されません(図3)。代わりに、水素は大きな効果を持つことが知られています。したがって、别の地球化学的考察から必要とされるシリコンに加え、コアには重量にして0.6%(原子数换算で25%)の水素が含まれていることがわかります(図4)。


図4:地球の断面図

浅い部分から地殻(浓い灰色)、上部マントル(薄い灰色)、下部マントル(白)、コア(水色)。地球が形成时に获得した水の大部分は还元されてコアに取り込まれた。コアの水素量を水に直すと海水の约80倍に相当する。

 地球の形成期、地球はマグマオーシャン(マグマの海)で覆われていたとされます。そのようなマグマオーシャン中で化学反応(水(マグマ)+金属鉄(コア)→水素(コアへ)+酸化鉄(マグマへ))が起こることにより、水素がコアへと取り込まれたと考えられます。すなわち、コアに0.6重量%の水素が入るためにはマグマオーシャン中に大量の水(地球全体の1.6重量%)が必要です。これは海水量(その质量は地球全体のわずか0.02重量%)の80倍に相当します。すなわち、惑星形成时に地球は大量の水を获得していましたが、その大部分がコアに水素として取り込まれた可能性が高いと言えます。

今后の展望

 今回の成果で地球コアに大量の水素の存在が明らかになりましたが、海を持たない他の太阳系地球型惑星であっても同様のことが考えられます。また、地球がどのように海水の80倍もの水を获得したのかを理解することも重要です。

 地球における生命の诞生と进化には、海水の量が大きく関係していた可能性があります。地球の海の质量は地球全体のわずか0.02重量%に过ぎません。海水量がわずかであることにより、地球表层には海と陆が共存し、多様な环境が存在しています。また生命にとっての必须元素であるリンやカリウムは、主に大陆の岩石の风化によって供给されています。海と陆の共存が、生命の诞生と进化に関してどのような役割を果たしたのか、さらに详しく调べる必要があります。

 また、太阳系外において、现在までに1,000个を超える惑星が発见されています。そのような系外惑星の海水量の推定を可能にすることが、宇宙における生命惑星の普遍性の理解につながると期待されます。

 

  • 中日新聞(1月17日 3面)および日刊工業新聞(1月17日 21面)に掲載されました。