2013年6月24日
米田特定准教授
米田英嗣(こめだ ひでつぐ) 白眉センター特定准教授、小坂浩隆 福井大学特命准教授、齋藤大輔 同特命准教授、猪原敬介 同学術研究員、石飛信 同助教、佐藤真 同教授、岡沢秀彦 同教授、棟居俊夫 金沢大学特任教授らのグループの共同研究において、青年期高機能自闭症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder; ASD)をもつ方々に、日常的な出来事が書かれてある物語文を読ませ、その理解と記憶を確認しました。文の読み時間と自閉症尺度との相関分析の結果、実験参加者のASD傾向が高いほど、定型発達(Typically Developing; TD)の人物が書かれた物語の読みに時間がかかることがわかりました。文の再认の结果、础厂顿群は、自分と类似した础厂顿の人物が书かれた物语の検索に优れることが明らかになりました。
本研究において、世界で初めて础厂顿をもつ人のための物语を考案したことにより、础厂顿の特性メカニズム解明に大きく前进しました。临床や教育场面への応用として、础厂顿倾向の强い人ほど、础厂顿の援助者に相応しいかもしれないという知见を提供できます。
この研究成果が、6月24日(ロンドン時間)に英国科学誌「Molecular Autism」誌に掲載されました。
背景
础厂顿をもつ方々を対象とした従来の研究は、罢顿の人物を対象に作られた刺激を用い、础厂顿群と罢顿群を比较し、罢顿の人が作った基準によって、础厂顿をもつ人たちが不得意なことを探す研究が多かったといえます。近年、罢顿の人たちを対象とした物语理解の研究において、自分と类似した性格を持つ主人公が书かれた物语を理解しやすく(図1)、共感が生起する(表1)ことが明らかになってきました。罢顿の人たちが自分と类似した他者について理解しやすいのと同じように、础厂顿をもつ人も自分と类似した础厂顿をもつ他者について理解しやすい可能性が考えられます。そこで、本研究では、础厂顿群は、础厂顿の倾向をもつ人物が登场する物语に対して、记忆の促进が起こると予测しました。
図1:外向性が高いグループにおいて、自分と似ていない内向的な性格の主人公よりも、自分と似ている外向的な性格の主人公の物語を読むのがやさしいことを示しています。縦軸の単位は、ミリ秒です。(Komeda, Kawasaki, Tsunemi, and Kusumi (2009) Cognition and Emotionを改変)
表1:視点取得、認知的共感、外向性得点、神経症得点という変数が、外向的な主人公、神経質な主人公、性格について記述されていない主人公に対する共感をどれだけ説明できるかを示した重回帰モデルです。実験参加者の外向性得点が高ければ高いほど外向的な主人公に共感し、実験参加者の神経症傾向得点が高ければ高いほど神経質な主人公に共感することを示しています。(Komeda, Tsunemi, Inohara, Kusumi, and Rapp (2013) Acta Psychologicaを改変)
研究手法?成果
ASDをもつ人物が登場する物語と、TDの人物が登場する物語を、18名のASDの成人と、18名のASD成人と同じくらいの年齢、知能指数をもつ17名のTDの成人に読んでもらいました(図2)。24個の物語を読み終わった後、呈示される文が先に読んだ物語の中に出てきたかどうかを判断してもらう、再认課題を行いました (図3)。
図2:物语文を、1文ずつ各自のペースで読んでもらいました。物语は6文で构成され、物语の理解度を确认した后で、次の物语に移りました。エピソード(础厂顿?罢顿)、エピソードとターゲットとの间の一贯性(あり?なし)を操作しました。
図3:前に読んだ物语の中に出てきた文かどうかを、2択で判断してもらいました。
TDの人は、TDのエピソードのほうがASDのエピソードよりもすばやく再认できたのに対して、ASDをもつ人は、ASD人物が登場する一貫性のある物語を、ASD人物が登場する一貫性のない物語よりもすばやく検索できました(図4)。このことは、ASDをもつ人は、ASDの物語を記憶する際に、文脈と一貫性のある形で貯蔵していることを示しています。
図4:グループ(ASD群?TD群)、一貫性(あり?なし)、エピソード(ASD?TD)を要因とした分散分析を行った結果、交互作用が得られました。図4では、下位検定において有意な差が得られたところを抽出して図示しています。縦軸の単位は、ミリ秒です(Komeda et al (in press) Molecular Autismを改変)。
波及効果
础厂顿群、罢顿群それぞれ自分と类似した人物が登场する物语に选択的な反応を示しましたが、その反応の现れ方が异なるということが明らかになりました。つまり、础厂顿者は他者に対する理解や记忆が劣っているのではなく、异なった方略によって処理しているということが示され、础厂顿の特性メカニズムを解明するのに大きく前进しました。临床场面への応用として、础厂顿倾向の强い人ほど、础厂顿の援助者にふさわしいかもしれないという知见を提供できると考えられます。教育场面への応用として、特别支援学级をデザインする际にも、有効な提言が可能になるかもしれません。
今后の予定
础厂顿をもつ人が、础厂顿をもつ他者に対して共感できるかを検讨することが必要です。础厂顿をもつ人は他者に対する共感が乏しいといわれていますが、自分と似ていない罢顿の他者に対してのみ共感することが难しいのかもしれません。そこで、础厂顿をもつ人による础厂顿倾向をもった他者に対する共感、そして础厂顿のお子さんを対象にした研究を、今后は行っていきます。
本研究の一部は、文部科学省脳科学研究戦略推进プログラムにより実施された「精神?神経疾患の克服を目指す脳科学研究」の成果です。
用语解説
自闭症スペクトラム障害
(1)社会性およびコミュニケーション能力に障害、(2)常同行动、想像能力の障害によって诊断される発达障害です。
再认
ある项目が呈示されたときに、その项目が先に呈示されたかどうかを判断する记忆の评価法です。
书誌情报
[DOI]
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Komeda Hidetsugu, Kosaka Hirotaka, Saito Daisuke, Inohara Keisuke, Munesue Toshio, Ishitobi Makoto, Sato Makoto, Okazawa Hidehiko.
Episodic memory retrieval for story characters in high-functioning autism.
Molecular Autism 2013, 4:20
- 京都新聞(6月25日 27面)および中日新聞(6月25日 29面)に掲載されました。