2013年6月13日
左から鹿子木特定助教、板仓教授、奥村大学院生
鹿子木康弘(かなこぎ やすひろ) 教育学研究科特定助教(当時は文学研究科大学院生)、奥村優子 文学研究科博士課程3回生、板倉昭二 同教授、井上康之 電気通信大学特任助教(当時は豊橋技術科学大学)、北崎充晃 豊橋技術科学大学准教授らのグループは、共同研究において、前言語期にある10ヶ月の乳児が苦境にある他者に対して、原初的な同情的態度をとることを発見しました。
本研究成果は、米国科学誌「PLoS ONE」誌に掲載されました。
概要
本研究グループは、几何学図形のアニメーションを用いて、犠牲者と攻撃者の相互作用を乳児に见せ、犠牲者と攻撃者の図形やその実物を対にして提示した际に乳児がそれらの役割を区别し、犠牲者である几何学図形に対する注视や、その実物に対する接近がみられるかどうかを検証しました。
その结果、乳児は攻撃者よりも犠牲者に対して选択的な接近行动を示しました。また几何学図形の相互作用に接触がない场合には、このような选択的な反応は见られませんでした。さらにこの反応は、中立図形が加えられ、中立図形と各几何学図形(攻撃者、犠牲者)とを対にして提示した际にも维持されました。
これらのことから、本研究グループは、前言语期にある10ヶ月の乳児が苦境にある他者に対して原初的な同情的态度をとると结论付けました。この苦境にある他者への反応は、后に発达する、より成熟した同情行动の基盘となっているかもしれません。
背景
これまでの研究により、1歳半からそれ以上の月齢において、乳幼児が苦境にある他者に同情的态度をとることが示されていました。しかしながら、乳児の认知能力や运动能力の未成熟さによる方法论的な制约のため、それ以前のより幼い乳児が苦境にある他者に同情的态度をとるかどうかは知られていませんでした。
研究手法?成果
本研究グループは、乳児の认知能力や运动能力をあまり必要としない実験パラダイムによって、前言语期乳児の他者に対する同情的态度を検証しました。具体的には、アニメーションにおいて几何学図形で攻撃者と犠牲者の相互作用を演出し、その后に各几何学図形に対する反応を调べるという方法を用いました。
実験1では、攻撃者である几何学図形がもう一方の犠牲者である几何学図形を追いかけ、小突き、最终的に押しつぶす相互作用(図1补)を乳児に见せ、その后に、各几何学図形を対にして提示し、各図形への注视や、その実物に対する接近がみられるかどうかを検証しました。ここでの犠牲者に対する选択的反応は、动物行动学における理论的な背景により、苦境にある他者に対する同情的态度と解釈されます。また、乳児研究においては、本研究のように几何学図形をエージェント(行為主体者)として使用することは确立された手法であります。
その结果、乳児は攻撃者よりも犠牲者に対して把持行為をより多く行い、犠牲者に対する选択的な接近行动がみられることがわかりました(図2)。また、几何学図形の相互作用に接触がない场合(図1产)には、このような选択的な反応はみられませんでした(図2)。
実験2では、乳児の选択的反応が、単に攻撃者を怖がっていたことによって生じた可能性を排除するために、中立物体を実験1の映像(図1补)に加え、攻撃者や犠牲者と独立に动くような相互作用(図1肠)を乳児に见せました。
その后に、中立図形と各几何学図形(攻撃者、犠牲者)とを対にして比较したところ、犠牲者と中立物体を対にして提示した际には、乳児はより多く犠牲者を选択し、攻撃者と中立物体を対にして提示した际には、乳児はより多く中立物体を选択しました(図3)。この结果から、実験1の结果は、単に乳児が攻撃者を怖がったことによるものではなく、犠牲者である几何学図形に対して选択的に反応していることがわかりました。
図1:実験で用いた几何学図形のアニメーションの概要。オレンジの矢印は时间経过、小さな白い矢印は个々の図形の进行方向をあらわしている。(补)攻撃相互作用:青の球体が攻撃者で黄色い立方体が犠牲者(产)接触のない相互作用(肠)中立物体(赤い円柱)が加えられた攻撃相互作用
(左)図2:攻撃相互作用条件と接触なし相互作用条件での攻撃?犠牲者への乳児の选択反応。縦轴は各物体を选択した乳児の割合。攻撃相互作用条件においては、犠牲者と攻撃者を対にした际に、犠牲者を选択する乳児が多かったが、接触がない相互作用条件では、そのような偏りはみられなかった。
(右)図3:中立物体と各物体とのペアに対する乳児の选択反応。縦轴は各物体を选択した乳児の割合。犠牲者と中立物体を対にして提示した际には、乳児はより多く犠牲者を选択し、攻撃者と中立物体を対にして提示した际には、乳児はより多く中立物体を选択した。
以上の実験から、本研究グループは、前言语期にある10ヶ月の乳児が、苦境にある他者に対して原初的な同情的态度をとると结论付けました。この苦境にある他者への反応は、后に発达する、より成熟した同情行动の基盘となっている可能性が考えられます。
これまでの共感や同情を扱った発达研究では主に18ヶ月以上の乳幼児を対象としていましたが、より幼い前言语期の乳児の同情的态度を示した本研究によって、今后、前言语期においても、多くの共感や同情を扱った研究が行われることが期待されます。この展开により、人间の生来的な本质が解明され、人间の本质は善か悪かといった议论にも多くの示唆が与えられることが予想されます。
今后の予定
现行の実験としては、この几何学図形のアニメーションに対する成人の反応を検証する実験が挙げられます。现在、本研究グループは、成人を対象とすることにより、乳児と同様に成人でこのような反応がみられるか、また、生理指标などを组み合わせて、この同情的态度のメカニズムを解明する研究も行う予定です。
また、本研究は多数の海外の研究者の関心も集めており、この同情的态度の反応倾向が社会や文化によって変容するかどうかを検証するために、スウェーデンやアメリカといった国々との文化差を検証する研究も现在计画中です。
书誌情报
[DOI]
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Kanakogi Yasuhiro, Okumura Yuko, Inoue Yasuyuki, Kitazaki Michiteru, Itakura Shoji.
Rudimentary Sympathy in Preverbal Infants: Preference for Others in Distress.
PLoS ONE 8(6): e65292 (2013)
- 朝日新聞(6月13日夕刊 10面)、京都新聞(6月13日夕刊 1面)、産経新聞(6月13日夕刊 1面)、中日新聞(6月13日夕刊 1面)、日刊工業新聞(6月14日 21面)、日本経済新聞(6月13日夕刊 14面)、毎日新聞(6月13日夕刊 10面)および読売新聞(6月13日夕刊 10面)に掲載されました。