2013年5月10日
村井助教
村井俊介 工学研究科助教、Gabriel Lozano AMOLF研究所(オランダ) 博士、Davy J. Louwers 同博士課程学生、Said R. K. Rodriguez 同博士課程学生、Olaf T. A. Jansen 同博士、Jaime Go'mez Rivas 同教授と、Marc. A. Verschuuren フィリップス研究所(オランダ) 博士の研究グループは共同で、ナノ(10億分の1)メートルサイズの金属粒子を周期的に並べた構造(ナノアンテナ)を用いると、発光材料の発光强度を大きく増强したり、発光の方向を制御できることを実験的に明らかにしました。次世代の照明として普及しつつある白色発光ダイオード(白色尝贰顿)にナノアンテナを组み入れることで、従来に比べ、高性能で省エネルギーな照明(スマート照明)の开発へ繋がることが期待されます。
この成果は、2013年5月10日(英国時間)に、英国ネイチャー系オンライン科学誌「Light: Science & Applications」に掲載されました。
背景
电球や蛍光灯に替わる次世代の照明として、白色尝贰顿の开発が进んでいます。典型的な白色尝贰顿は青色尝贰顿と青色光の照射で黄色に光る蛍光体の组み合わせからなり、蛍光体に吸収されなかった青色と蛍光体からの黄色が混ざることで白色光が得られます(図1)。现在、白色尝贰顿のさらなる高性能化に向けて、青色尝贰顿の高性能化、新规蛍光体の开発、あるいは青色尝贰顿と蛍光体の空间的配置の最适化など多方面からの研究が进んでいます。
図1:典型的な白色尝贰顿の构造の模式図
青色尝贰顿と、青色の光を吸収して黄色の光を放出する蛍光体(主にセリウムを添加したイットリウム?アルミニウム?ガーネット结晶が使われる)から构成されます。吸収されなかった青色光と、蛍光体からの黄色光が混ざって白色光となります。
一方、発光を増强する新たな方法として、金属特有の光学现象である表面プラズモン共鸣を用いることが近年提案され、世界中で研究されています。例えばナノメートルサイズの金属粒子に光を照射すると粒子表面に表面プラズモン共鸣が励起され、光のエネルギーが粒子表面に集中する効果が得られます。このように光を制御する効果をもつ金属のナノ構造はナノアンテナと呼ばれます(図2)。ナノアンテナを使うと、従来は検知できなかった微弱な信号を検出できる高性能なセンサーや、従来よりも高効率な太陽電池の作製が期待されます。蛍光体をナノアンテナと組み合わせることでその発光強度を増強する試みも盛んになされており、特に量子収率の低い発光材料には有効であることが报告されています(参考文献1)。しかし、実用に近い、量子収率の高い材料は発光强度の増强の余地が小さく、また金属による発光材料の失活の影响があり、増强効果は限定的なものにとどまっていました。また、ナノアンテナが作製できる面积が小さい(100マイクロメートル四方程度)ことや、材料として金や银などの贵金属を使っていることなど、照明に応用するには问题点がありました。
図2:ナノアンテナとしてはたらく、金属ナノ粒子の周期构造の电子顕微镜画像
研究手法?成果
今回、研究グループは、背景で述べられたナノアンテナの问题点を克服し、量子収率の高い発光材料の発光强度を60倍程度まで増强することに成功しました。ナノアンテナとして金や银ではなく、安価な金属アルミニウム粒子の周期构造を採用し、ナノインプリントリソグラフィーによって大面积(10センチメートル四方)で精度の高い加工に成功しました。実験に使用した构造を図3に示します。ガラス基板上に作製したナノアンテナの上に、発光层として色素(量子収率86%)を含むポリマー膜を涂布することで试料としました。この発光层の厚さを650ナノメートルと、従来の研究に比べ非常に厚くすることで、金属による失活効果の低减を狙いました。この试料を青色レーザーで励起したところ、ナノアンテナがない场合に比べて格段に明るく光り、特に试料面に垂直な方向への発光强度は単一波长での比较で最大60倍にまで増强されました(図4)。また、ナノアンテナ试料では発光の指向性が高まることも明らかになりました(図5)。
図3:试料と测定の模式図
ナノインプリントリソグラフィーにより金属アルミニウム粒子の周期构造からなるナノアンテナをガラス基板上に作製し、その上に色素の入ったポリマー膜からなる発光层を涂布して试料としました。青色レーザーで励起し、発光を试料面からの角度θの関数として検出しました。
図4:(补)ナノアンテナ试料の写真。画面后方から青色レーザーが入射しています。中心の一番明るいスポットが照射点で、ナノアンテナによって回折された光がその周りに明るい点をつくります。挿入図は试料の垂直方向(θ=0度)で観察した、ナノアンテナ试料と参照试料の照射点における発光强度の比较です。ナノアンテナ试料の方がはるかに明るく光ります。(产)试料面に対し垂直方向(θ=0度)で検出したナノアンテナ试料の発光スペクトルを参照试料の発光スペクトルで规格化した図。発光强度が最大で60倍近く増强されていることがわかります。図中の矢印はナノアンテナが回折条件を満たす波长を表します。回折条件と増强の起こる波长がよく一致します。
図5:発光强度の方向依存性
测定波长范囲で积算した発光强度を、参照试料の积算発光强度で规格化して、试料面に垂直な方向からの角度に対してプロットしました。金属アルミニウム粒子がランダムに并んだランダム试料では発光の角度依存が少なく、また强度の増强も限定的であるのに対し、ナノアンテナ试料では试料面に垂直な方向に强い発光が见られます。
この発光强度の増强と発光方向の制御は、以下の叁つの机构の相乗効果であると考えられます。
- 青色レーザーの吸収の増加:表面プラズモン共鸣の電場集中効果により、ナノアンテナの周囲では照射した青色レーザーの強度が高くなります。これによりナノアンテナがない場合に比べ色素に光が集中し強く励起されます。
- ポリマー膜からの発光の取り出し効率の上昇:ポリマー膜は屈折率が空気よりも高いために、全反射により色素からの発光の一部が闭じ込められて外に取り出せません。ナノアンテナは光を特定の方向に回折し、外部に放出する役目を果たします。
- 色素の発光速度の上昇:色素の周囲に电磁波のエネルギーを集中することで、色素の発光速度が上昇することが知られています。ナノアンテナにより発光层内での电磁波の分布を制御し、色素をより明るく光らせることができます。
これら叁つのうち、特に2と3の机构は金属粒子がランダムに分散するのではなく、规则的に并んだナノアンテナを用いることで大きな効果が期待できます。今回、この叁つの机构に加え、発光层が厚いために电磁波のエネルギーが集中する场所が金属から离れたことで金属による色素の失活が低减され、大幅な増强効果が実现したと考えられます。
波及効果
今回は高い量子収率をもち、実用化に向けて研究が进められている色素を発光材料として実験を行いましたが、本手法は他の蛍光体にも応用可能です。商业的に最も使われている黄色蛍光体であるセリウムを添加したイットリウム?アルミニウム?ガーネット(驰础骋:颁别)からの発光もナノアンテナにより制御可能であることが确认されました(参考文献2、3)。ナノアンテナにより実现する発光强度や発光の指向性の増大が、従来よりも省エネルギーで省资源かつ高性能な照明(スマート照明)の开発に繋がることが期待されます。
今后の予定
今回使用されたナノアンテナと発光层の厚さが650ナノメートル(0.65マイクロメートル)程度であり、増强后の発光强度は现状の照明(発光层の厚みが数十マイクロメートル)の発光强度には及んでいません。今后は、このナノアンテナと発光层を3~5枚程度积层することにより厚みを増やし、十分に辉度をもった构造の実现を目指します。
用语解説
ナノアンテナ
単独の金属ナノ粒子、あるいは今回使用されたような粒子の周期構造は、表面プラズモン共鸣を通じて光を集めたり特定の方向に放出する効果があることから、光に対する微小なアンテナという意味で「ナノアンテナ」と呼ばれます。
表面プラズモン共鸣
金属と诱电体の界面において、金属の伝导电子が电磁波と共鸣して协同的に振动する现象。
量子収率
蛍光分子に吸収された光子の数と、蛍光によって放出された光子の数の比。吸収された光子がすべて蛍光に使われれば1(100%)となるが、格子振动などの蛍光以外の过程により光子のエネルギーが消费されてしまうと1以下になります。
ナノインプリントリソグラフィー
型を基板に押し当てることで微细加工を実现する技术。従来のリソグラフィーに比べ高解像度で低コスト、また寸法制御性に优れています。
本研究の一部は、日本学术振兴会「头脳循环を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」の助成を受けて行われました。
参考文献
- K. Okamoto, I. Niki, A. Shvartser, Y. Narukawa, T. Mukai, and A. Scherer,
Nat. Mater. 3 (2004) 601-605; DOI:10.1038/nmat1198 - S. Murai, M. A. Verschuuren, G. Lozano, G. Pirruccio, S. R. K. Rodriguez, and J. G. Rivas,
Opt. Express, 21 (2013) 4250-4262; DOI: 10.1364/OE.21.004250 - S. R. K. Rodriguez, S. Murai, M. A. Verschuuren, and J. G. Rivas,
Phys. Rev. Lett., 109 (2012) 166803-(1-5). DOI: 10.1103/PhysRevLett.109.166803
书誌情报
[DOI]
Gabriel Lozano, Davy J. Louwers, Said R.K. Rodriguez, Shunsuke Murai, Olaf T.A. Jansen, Marc A. Verschuuren, and Jaime Go'mez Rivas
"Plasmonics for solid-state lighting: enhanced excitation and directional emission of highly efficient light sources"
Light: Science & Applications (2013) 2, e66; doi:10.1038/lsa.2013.22
- 京都新聞(5月11日 28面)および日刊工業新聞(5月16日 21面)に掲載されました。