耐圧20,000ボルト(世界最高)の半导体素子を実现

耐圧20,000ボルト(世界最高)の半导体素子を実现

2012年6月4日


木本教授

 木本恒暢 工学研究科教授、須田淳 同准教授、丹羽弘樹 同修士課程学生のグループは、SiC(炭化珪素)半导体を用いて、世界最高となる20,000ボルトの电圧に耐える整流素子を作製することに成功しました。电力の送电、変电などの変换器には超高耐圧の半导体素子が必要となりますが、现在使われているSi(珪素:シリコン)では材料の性质に起因する制约のため、6,000~8,000ボルト程度の耐圧が限界です。厂颈颁は厂颈より絶縁破壊や热に强いという特长を有しており、次世代の电力変换用半导体として世界的に注目されています。

 今回、独自の厂颈颁の结晶成长技术と加工技术、电界集中を缓和する构造の採用、および表面保护技术を集约し、20,000ボルト以上の耐圧を示す笔颈狈ダイオード(整流素子)を実现しました。

 この研究成果の详细は、6月3~7日にベルギー国ブルージュで开催の米国电気电子学会(滨贰贰贰)主催の (2012 International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs, ISPSD2012) にて発表されました。

概要

 本学は、SiC半導体研究の世界的パイオニアとして認識されています。今回、独自のSiCの結晶成長技術と加工技術、電界集中を緩和する構造の採用、および表面保護技術を集約し、20,000ボルト以上の耐圧を示す笔颈狈ダイオード(整流素子)を実现しました。
今回の成果を得る上で重要なポイントは以下の通りです。

  1. 180ミクロンの厚さを有する高纯度厂颈颁结晶を用いました(従来は10~50ミクロン)。これにより、超高耐圧を得るための下地を完成させました。
  2. 电界集中を缓和する独自の素子构造(空间変调型接合终端构造)を用い、高精度数値解析によって构造の最适设计を行いました。この结果、1.で作製した结晶に対して理想的な高耐圧を达成しました。
  3. ポリイミド膜を用いた表面保护を施し、表面での放电を抑制しました。

 特に、上记2.の素子构造の工夫が重要です。通常の素子では、接合端部などで电界が局所的に高くなるため(电界集中と呼ばれる)、结晶の厚さと不纯物密度で决まる理论耐圧よりかなり低い电圧で素子は絶縁破壊を起こします。特に、今回のような超高耐圧素子では、理论値の约半分(50%)程度の耐圧しか得られないことが多く、超高耐圧素子の実现を阻んでいました。本研究では、电界集中を缓和させるのに有効な构造を考案し、炭化珪素で构成された辫苍接合の周辺部に、局所的にアルミニウムを适切な密度でイオン注入を行った构造を形成することで、20,000ボルト以上の耐圧を达成しました。今回得られた耐圧(约22,000ボルト)は、理论耐圧の80%以上に达しています。今后、厂颈颁単结晶の厚さをさらに増やすことにより、30,000ボルト以上の耐圧を达成することも视野に入ってきました。

 多くの半导体素子は厂颈を中心に発展してきましたが、特にパワーデバイス分野では材料の性质で决まる理论的性能限界に近づいています。厂颈颁は絶縁破壊や热に対する耐性が着しく优れており、高耐圧?低损失(高効率)パワーデバイス用材料として世界で研究开発竞争が炽烈になっています。本学では高品质结晶、物性制御からデバイスの设计と作製の研究に一贯して取り组み、今回の世界最高耐圧を达成しました。今回の超高耐圧厂颈颁素子の実现により、电力系统の変换器の大幅な小型化が期待され、当该分野の研究开発が一层活発になるものと考えられます。


図: SiC厚膜成長層を用い、空間変調を取り入れた接合終端構造を適用したPiNダイオードの特性。21.7kVの超高耐圧を達成した。

学术的?社会的重要性と波及効果

 本研究は、SiCに限らず、いかなる半導体素子の中で最高の耐圧を達成したことに意義があります。超高耐圧の素子が要求される応用の一例として、紀伊水道の海底ケーブルを用いた高電圧直流送電(HVDC)や、東日本(50ヘルツ)/ 西日本(60ヘルツ)の周波数変換が挙げられます。このような电力変换システムでは、100,000~300,000ボルトの電気が扱われます。また、住宅近隣の電柱を介する架線(配電系統)でも6,600ボルトの電気が使われており、これを100~200ボルトに変換する場合には、20,000ボルトの電圧に耐える半導体素子が必要です。従来は、このような超高耐圧の素子は存在しなかったために(6,000~8,000ボルトが限界)、耐圧数千ボルト級の素子を多段階に接続することで、电力変换を行ってきました。しかしながら、この方法では、設備が非常に大きくなる、电力変换時の損失が大きい、変換器の信頼性が低下するなどの問題が深刻化していました。

 上記の問題を解決するために、近年、SiCを用いた超高耐圧素子の研究開発が活発化してきましたが、その耐圧は10,000ボルト程度に留まっていました(米国クリー社、本学など)。今回の研究により20,000ボルトの壁を突破したことは、当該分野に大きなインパクトを与えると考えられます。本研究が進展し、超高耐圧SiC素子の実用化が開始されれば、高電圧电力変换設備の大幅な小型化と低損失化、低コスト化が実現できます。低損失化については、日本だけで原子力発電所1~2基分の電力を節約できると期待されています。小型、低損失の超高耐圧电力変换器が実現できれば、将来のスマートグリッドの構築に大きく貢献します。

本研究は、日本学术振兴会から最先端研究开発支援プログラムおよび科学研究费补助金の助成を受けました。

 

  • 朝日新聞(6月4日 30面)、京都新聞(6月4日 3面)、産経新聞(6月4日 2面)、日刊工業新聞(6月20日 21面)、日本経済新聞(6月5日 12面)および毎日新聞(6月4日 2面)に掲載されました。