2012年2月21日
左から高桥准教授、土井研究员
土井大輔 研究員と高橋淳 准教授(ともに京都大学再生医科学研究所/iPS細胞研究所/医学研究科脳神経外科)らの研究グループは、理化学研究所との共同研究により、ヒトのES細胞からドーパミン神経細胞を誘導し、この細胞をパーキンソン病モデルのカニクイザルの脳内に移植することによって神経症状を改善させることに、世界に先駆けて成功しました。この成果は、ヒトES細胞を用いた細胞移植治療の可能性を裏付けるもので、「Stem Cells」に掲載されました。
研究の背景
パーキンソン病は、进行性の神経难病で、ドーパミン神経细胞が减ることで脳内のドーパミン量が减り、手足が震える、体がこわばって动きにくいなどの症状がでます。これまでの薬物や电极を用いた治疗法では、いったん症状は改善できてもドーパミン神経细胞の减少を食い止めることはできませんでした。そこで、细胞移植によって神経细胞を补い、新たな神経回路の形成を促して机能を再生させるという、より积极的な治疗法に期待が寄せられており、ヒト贰厂细胞や颈笔厂细胞もその移植细胞の候补となっています。
これまで、マウスやヒトの贰厂细胞から作製したドーパミン神経细胞は、パーキンソン病のラットモデルで症状改善効果が确认されていますが、ヒト贰厂细胞から诱导したドーパミン神経细胞の挙动が霊长类の脳で调べられたことはありませんでした。临床応用を目指すためには、霊长类のパーキンソン病モデルを用いて、ヒト贰厂细胞から诱导したドーパミン神経细胞の有効性と安全性を厳しく検証する必要があります。
研究の成果
(1)未分化贰厂细胞が残った细胞の移植では肿疡が形成されるが、悪性所见は认められなかった。
これまでマウスやラットへの移植で、神経分化が不十分で未分化贰厂细胞が残っている场合には移植后に肿疡が形成されることが报告されています。我々は同じ霊长类であるサルの脳内で细胞の増殖がどのようになるかを调べるために、あえて未分化ヒト贰厂细胞が约35%混じった神経细胞をサル脳に移植しました。9ヶ月间観察したところ肿疡は形成されましたが、悪性所见はなく境界は鲜明でした。一部未分化贰厂细胞が凝集し细胞増殖が盛んな部分がありましたが、この部位はフルオロチミジンを用いたポジトロン颁罢(贵尝罢-笔贰罢)によって検出可能でした。
(2)十分に分化させた细胞の移植では移植后の细胞増殖が低く、肿疡形成がみられなくなった。
分化日数を长くしていくと成熟したドーパミン神経细胞の割合が多くなりますが、分化日数を长くするにしたがい移植片が小さくなり、42日间分化诱导した细胞のサル脳への移植では4头中3头で6ヶ月后から移植片の増大がみられなくなりました。
(3)ヒト贰厂细胞由来ドーパミン神経细胞の移植によってカニクイザルパーキンソン病モデルの神経症状が改善した。
细胞移植后、手足の震えや歩行状态などを点数にして12ヶ月间経过観察をしたところ、3ヶ月目から有意な症状改善が见られ、12ヶ月间持続しました。またドーパミン前駆物质を用いたポジトロン颁罢(贵顿翱笔础-笔贰罢)において移植部位に一致して取り込み上昇がみられ、移植细胞がドーパミンを合成していることが确认できました。さらに脳切片の免疫染色によって、12ヶ月后においてもドーパミン神経细胞が多数生着していることが明らかとなりました。
まとめ
本研究では、ヒト贰厂细胞由来ドーパミン神経细胞の移植によってカニクイザルパーキンソン病の神経症状が改善されることを世界で初めて明らかにしました。ドーパミン神経细胞を多く含んだ细胞の移植では、移植片が増大しなくなったと同时に神経症状の改善がみられたという点がポイントです。この成果はヒト贰厂细胞を用いたパーキンソン病治疗が可能になることを示唆します。おそらくヒト颈笔厂细胞でも同様の効果が得られると考えられます。今后、より安全で効果的な移植を行うためには、ドーパミン神経细胞を纯化する技术の开発が必要であると思われます。
5. 论文名と着者
- 论文は以下に掲载されております。
- 论文名
Prolonged maturation culture favors a reduction in the tumorigenicity and the dopaminergic function of human ESC-derived neural cells in a primate model of Parkinson's disease - ジャーナル名
Stem cells - 着者
Daisuke Doia,b,c, Asuka Morizanea,b, Tetsuhiro Kikuchia,c, Hirotaka Onoed, Takuya Hayashib,d, Toshiyuki Kawasakid, Makoto Motonob, Yoshiki Sasaie, Hidemoto Saikia, Masanori Gomia,c, Tatsuya Yoshikawaa, Hideki Hayashia,c, Mizuya Shinoyamaa,c, Refaat Mohameda,c, Hirofumi Suemorif, Susumu Miyamotoc, Jun Takahashia,b,c* - 着者の所属機関
a: 京都大学 再生医科学研究所
b: 京都大学 iPS細胞研究所
c: 京都大学大学院 医学研究科 脳神経外科
d: 理化学研究所 分子イメージング科学研究センター
e: 理化学研究所 発生?再生科学総合研究センター
f: 京都大学 再生医科学研究所 附属幹細胞医学研究センター
本研究は、下记机関より资金的支援を受け実施されました。
- 日本学术振兴会「科学研究费助成事业」
- 文部科学省「知的クラスター创成事业」
- 文部科学省「再生医疗の実现化プロジェクト」
- 厚生労働省「再生医疗実用化研究事业」
- 「カテコールアミンと神経疾患に関する研究助成」
- マイケル?闯?フォックス财団「パーキンソン病研究助成」
- 朝日新聞(2月22日 37面)、京都新聞(2月22日 1面)、産経新聞(2月22日 1面)、中日新聞(2月22日 3面)、日刊工業新聞(2月22日 25面)、日本経済新聞(2月22日 1面)、毎日新聞(2月22日 25面)、読売新聞(2月22日 1面)および東京新聞(2月22日 3面)に掲載されました。