2012年2月1日
左から池田研究员、曽田教授
曽田貞滋 理学研究科教授らの研究グループは、昆虫の中でも特に種数が多い甲虫において、飛翔能力の退化が種多様化の主要な推進力となってきたことを確認しました。この研究成果は、1月31日付け(ロンドン時間)でNature Communicationsに掲載されました。
昆虫は全生物种の半数を占めており、もっとも种数が多い生物群です。昆虫が繁栄している理由のひとつに、翅(はね)を进化させ、飞べるようになったことがあげられます。飞翔能力の获得によって、広い范囲で饵や配偶者をさがすことが可能になり、さらに、様々な地域や生息环境へと分布を広げることが可能になりました。しかし、翅とそれを动かす飞翔筋を形成するには大きなコストがかかります。飞翔のために费やす物质?エネルギーを繁殖や生存にまわせば、より多くの子孙を残せる场合もあります。そこで、飞翔筋の退化や、翅そのものの退化によって、飞ばずに生活する方向に进化した昆虫もしばしば见られます。一般に、移动分散力が乏しい生物ほど、异所的な集団间の遗伝的な分化が进み、そのために种分化を起こしやすいと考えられます。したがって、飞翔能力を失った昆虫の系统では、种分化が速く进行することが予测されます。
写真: ヒラタシデムシ亜科の飛べる種(左:ベッコウヒラ
タシデムシ)と飞べない种(右:ホソヒラタシデムシ)
私达は、昆虫の中でも特に种数が多い甲虫类(约35万种。昆虫の种の40%を占める)について、「适応的に飞翔能力が退化した系统では、移动力が低下して、异所的种分化が促进され、种が増加する」という仮説をたて、ヒラタシデムシというグループでその仮説を検証しました。まず、飞翔できる种とできない种の间で、集団间の遗伝的分化の程度を调べたところ、予想通り、飞翔できる种では地理的集団间の分化の程度が非常に小さいのに対し、飞翔できない种では集団间で明らかに分化しており、潜在的に异所的种分化が起きる可能性が高いことが确かめられました。さらに、系统树の上で、飞翔能力を保持している系统と退化した系统との间で种分化速度を比较し、飞翔能力が退化した系统の方が、种分化率が高いことを示しました。最后に、甲虫の15科51种に関する既存の研究例を分析し、飞翔能力のない种がある种に比べて地理的な遗伝的分化の程度が大きいことを示しました。
甲虫の种多様化の理由として、かつて「被子植物が登场してそれを食べる甲虫が进化し、被子植物の多様化とともに甲虫の种の多様化が起こった」という説が提唱されました。しかし、その后の研究で、甲虫のほとんどのグループは被子植物が多様化する以前に分化し、多様化を続けてきたことが分かってきました。つまり、甲虫はその进化の初期において多様な生态的适応を遂げ、その后衰退することなく种を増やしてきたものと推测されます。甲虫全体で飞翔のための翅(后翅)がない种は约10%、科によっては20~25%を占めています。飞翔筋がなくて飞べない种を含めると、飞べない种はさらに多いと考えられます。飞翔能力の退化は、甲虫の継続的な种多様化の主要な推进力のひとつとなってきたと考えられます。
论文情报
Ikeda, H., Nishikawa, M., Sota, T. (2012) Loss of flight promotes beetle diversification. Nature Communications. 3: 648.
DOI: 10.1038/ncomms1659
研究チーム
池田紘士(日本学术振兴会特别研究员、森林総合研究所所属)、西川正明(海老名市、甲虫研究家)、曽田贞滋(京都大学大学院理学研究科教授)の3名
※池田は2010年3月まで京都大学に研究员として在籍、研究は主に京都大学において行われました。
研究支援
本研究は、特に京都大学グローバル颁翱贰プログラム「生物の多様性と进化研究のための拠点形成—ゲノムから生态系まで」の援助を受けました。
补足説明
(1)昆虫は古生代シルル紀(4億2千万年前)に登場した最古の陸上動物のひとつで、有翅昆虫(有翅亜綱)は4億年前には出現していたと推測されています(Engel & Grimaldi 2004)。現在知られている昆虫の種は約100万種に及びますが、その99%は有翅昆虫です。昆虫の中でとくに種数の多いグループは、甲虫目、双翅目(ハエ、カ)、膜翅目(ハチ、アリ)、鱗翅目(チョウ、ガ)の四つで、いずれも有翅昆虫です。昆虫全般の飛翔能力の退化については、Roff(1990)による総説があります。
(2)甲虫目(鞘翅目):有翅昆虫の主要なグループで、その祖先は约2亿8500万年前(叁畳纪)に出现したとされます。现在35万种以上が知られていて、四つの亜目、168の科に分けられています。甲虫の翅は、前翅と后翅から构成されています。前翅は固く、体の后半を覆っており、鞘翅(さやばね)と呼ばれています。后翅は膜状で、前翅の下に折りたたまれて収纳されています。飞翔の际には前翅が开いて、后翅が展开しはばたきます。后翅を动かすのに飞翔筋が使われます。一般には、飞翔筋が退化した后に、后翅の退化が起きます。后翅があっても、飞翔筋が退化していれば飞翔はできません。后翅の长さには遗伝的変异があり、缩小?退化すると飞翔できなくなります。
(3)被子植物は白亜紀(1億4千万年前)以前に出現し、白亜紀以降に急速に多様化しました。被子植物を利用する甲虫は全体の3分の1ほどです。植物の多様化とそれを食べる昆虫の多様化が同時に起こる仕組みは、軍拡競走的な「共進化」で説明されてきました。つまり、植物が食べられないように新しい防御形質を進化させると、昆虫はそれを破るような形質を進化させ、さらに植物の防御形質の進化を促す。これが繰り返されるうちに、種が多様化するという仮説です。被子植物食になった甲虫が多様化したという仮説は、Farrell(1998)の分子系統を用いた研究で支持されました。しかし、甲虫目の大半の科を含めた分子系統樹をもとにした最新の研究(Hunt et al. 2007)では、植食性の甲虫の種分化の速度がとくに速いという証拠は得られませんでした。そのため現在ではこの仮説は支持されていません。
(4)ヒラタシデムシ:甲虫目多食亜目ハネカクシ上科の、シデムシ科ヒラタシデムシ亜科に属します。飞翔できる种は、哺乳类など脊椎动物の死体を主な饵としますが、飞翔能力が退化した种は、ミミズなどの无脊椎动物を饵としています。
(5)飞ばなくなる进化が起こる要因はいくつかあげられます。生息场所が比较的安定している场合には飞翔能力をなくし、繁殖にその分のエネルギーをまわす方が有利になります。ヒラタシデムシの场合では、脊椎动物の死体という散在する饵を食べる习性から、ミミズなどの、もっと连続的に分布していて歩いて探索のできる饵を食べる食性に进化した场合に飞翔能力の退化が起こっています。
参考文献
Engel, M.S. & Grimaldi (2004) New light shed on the oldest insect. Nature 427: 627-630.
Roff, D. (1990) The evolution of flightlessness in insects. Ecological Monographs 60: 389-421.
Farrell, B.D. (1998) “Inordinate fondness” explained: why are there so many beetles? Science 281: 555-559.
Hunt, T. et al. (2007) A comprehensive phylogeny of beetles reveals the evolutionary origins of a superradiation. Science 318: 1913-1916.
関连リンク
- 论文は以下に掲载されております。
(京都大学学术情报リポジトリ(碍鲍搁贰狈础滨))
- 京都新聞(2月1日 25面)、産経新聞(2月16日 23面)、日本経済新聞(2月1日 38面)および科学新聞(2月17日 2面)に掲載されました。