ホップの苦味成分を作る遗伝子を発见

ホップの苦味成分を作る遗伝子を発见

2011年12月27日

 矢崎一史 生存圏研究所教授らの研究グループは、ビール醸造に欠かせない「ホップ」の苦味成分を作る遺伝子を世界に先駆けて見出すことに成功し、英国の生化学専門誌にその成果を発表しました。

研究の概要

 ホップはビールを醸造するためには必须の材料である。ビールにおけるホップの役割は、以下の通りである。

  • ビール特有の苦味を与える
  • ビールに香りを与える
  • 杀菌作用(醸造中に雑菌が入りにくい)
  • 泡持ちをよくする

 このうち、苦味はビールに特有のもので、世界中で消费されるビールに入れるため、大々的に商业栽培されている。ちなみに、アルコール?フリーのビールが最近我が国では商业的な成功を収めているが、これにもホップが使われている。すなわち「ホップがないとビール味にはならない」というほど、ホップはビール醸造において味を决定する主要因となっている。

 このビールの苦味は、「苦味酸」と呼ばれる成分によることが既に60年以上も前から分かっている。「苦味酸」は大きくα酸、β酸に分けられるが、特にα酸はフムロンとも呼ばれ、ビールの中に溶け込んで苦味を与え、上记の抗菌性や泡持ちにも役立っている。この成分(フムロン)は、フロログルシノールという母核に「プレニル」というヒゲが结合した化学构造を持つが、このヒゲがどのような酵素によって母核につけられるか、数十年にも及ぶ探索にも関わらず、これまで未解明であった。

 今回我々は、ホップの遗伝子の网罗的探索と生化学的研究を组み合わせることで、世界に先駆けてその酵素遗伝子贬濒笔罢-1を発见した。

発见の详细

 ビールの苦味の本体であるホップ成分を作る遗伝子を见出す研究は、キリンホールディングス株式会社と共同で约5年前に着手した。ホップの苦味成分(惯用名:苦味酸)はポリフェノールの仲间であるが、特殊な化学构造をしており、α酸とβ酸が知られる。それぞれ、α酸にはフムロン、β酸にはルプロンという英名が与えられているが、いずれも、フロログルシノールという単纯なポリフェノールにプレニル基という「ヒゲ」が二つないし叁つ结合した化学构造を持つ。フロログルシノール自体にはこのホップ特有の苦味はないため、このプレニル基の「ヒゲ」が味にとって重要な役割を果たしていると考えられている。

 ビール醸造に使われるホップは、アサ科のホップという蔓植物の雌花である。上记の苦味成分はホップ类に特有の成分であるが、雌花の中にできる「ルプリン」と呼ばれる黄色い粉上の组织の中に特异的に贮まる。この成分がホップの中でどのように作られるかは、世界中のホップ研究者の兴味の対象であり、多くの生化学者、植物学者がその遗伝子の同定を试みたが、数十年の永きに渡り、その酵素遗伝子は未解明のままであった。

 我々は、キリンホールディングスとの共同研究で、キリン2号という品种から网罗的な遗伝子解析を行い、我々が独自に蓄积した植物酵素の蛋白质情报とコンピュータを使って候补遗伝子贬濒笔罢-1を绞り込んだ。その后、贬濒笔罢-1を昆虫の细胞を使って蛋白质にし、その酵素活性を証明した。结果として、フロログルシノール类を基质として、プレニルのヒゲをつける酵素活性(プレニル化活性)が认められた。また、この酵素蛋白质が数种类あるフムロンやルプロンの类似化合物を基质とし、最初のプレニル基をつける反応を司る「键」酵素であることが判明した。また、兴味深いことに、ホップの中のプレニル化フラボノイドのキサントフモールという抗がん成分があるが、それを作る酵素反応も、この贬濒笔罢-1が行うことが分かった。植物の同类酵素で、このような広い基质特异性を持った酵素は非常に珍しい。この基质特异性の実験过程において同定用の标品の化学合成で、徳岛大学ソシオテクノサイエンス研究部の宇都先生らにご协力いただいた。

展望と波及効果

 ホップはビール醸造に使われるために世界には80品种があり、大规模に商业栽培されている。特に、ドイツのハラタウ、チェコなどがヨーロッパの产地として有名である。

  • ホップの苦味成分は抗炎症作用や、血管新生抑制作用、细胞増殖抑制作用(いずれも癌组织の生长を抑える)が知られ、ヒトの健康维持に役立つ植物成分として注目されている。また贬濒笔罢-1はキサントフモールの生产も担っていることから、こうした植物由来の抗肿疡性成分の効率的生产に役立つことが期待される。
  • 逆の用途として、こうした苦味成分やキサントフモールのような活性成分を含まないホップを生产させることにも利用でき、女性ホルモン様作用を有する8-プレニルナリンゲニンが多く含まれる新しいホップ品种の作出にも利用できると期待される。
  • ホップは雄雌が别の植物であり、品种改良には交配が必要となるが、その际、雄株がこうしたプレニルか成分をたくさん含む优良遗伝子を持っているかどうかは、掛け合わせた子孙を作らないと分からない(乳牛の父亲が良いか悪いかが见た目で分からないのと同じ)。したがって、ホップの优良な雄株あるいは交配株の品质を评価する遗伝子マーカとしての利用が期待され、新しい味のホップの选抜、ひいてはビールの新製品开発にもつながる成果である。
  • 本研究は、キリンホールディングス株式会社、徳岛大学との共同研究である。
  • 研究費は文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(B)、およびキリンホールディングス株式会社からの共同研究経費による。
  • 主な実験は矢崎研究室の大学院生、鹤丸优介氏による。

関连リンク

  • 论文は以下に掲载されております。
  • 以下は论文の书誌情报です。
    Tsurumaru Y, Sasaki K, Miyawaki T, Uto Y, Momma T, Umemoto N, Momose M, Yazaki K. HlPT-1, a membrane-bound prenyltransferase responsible for the biosynthesis of bitter acids in hops. Biochem Biophys Res Commun. 2011 Dec 7.

 

 

  • 朝日新聞(12月28日 27面)、京都新聞(12月28日 22面)、産経新聞(12月28日 20面)、日本経済新聞(12月28日 34面)および読売新聞(12月28日 23面)に掲載されました。