室温で电圧による磁力のスイッチに成功~スピンデバイスの电気的制御手法に新たな道~

室温で电圧による磁力のスイッチに成功~スピンデバイスの电気的制御手法に新たな道~

2011年10月3日


左から小林准教授、岛村氏、千叶助教、小野教授

 千葉大地 化学研究所助教、小野輝男 同教授、小林研介 同准教授、島村一利 同大学院生らと日本電気株式会社(NEC)の研究グループは、科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、金属磁石の磁力を室温で電気的にスイッチすることに世界で初めて成功しました。

 磁性体のキャリア浓度を电気的に制御してその性质を制御する研究は、これまで主に磁性半导体などを用いて行われてきました。ごく最近、磁性金属においても同手法を用いて磁化方向の电圧制御などが报告されるようになってきましたが、磁石の性质そのものを电気的にオンオフさせることは难しいと考えられてきました。

 今回、代表的な强磁性迁移金属であるコバルトの超薄膜に絶縁膜を介して电圧を加えて、コバルト表面の电子浓度を変化させることで磁石の性质をもつ强磁性状态と磁石の性质をもたない常磁性状态を室温でスイッチできることを明らかにしました。

 これにより、外部から磁界を加えたり温度を変えたりすることなく磁石の性质を电気的にしかもほとんど电流を流すことなく制御できるため、将来的には消费电力の极めて小さな磁気记録デバイスやコイルを用いない电圧駆动式の磁界発生器などへの応用が期待できます。

 この成果は、英国科学誌Nature Materials誌に2011年10月2日(英国時間)にオンライン公開されました。

研究の背景と経纬

 磁石の性质は、一般的に温度や机械的な歪みによって変化することが知られています。また、外部から加えた磁界や电流により磁石の磁化の方向を変えたり、スイッチしたりすることができるため、ハードディスクや磁気メモリなどの记録メディアとして広く利用?开発されています。このような中、これらデバイス动作の更なる省エネ化?超高速化の観点から、磁界や电流を用いずに、电圧により磁化の方向をスイッチする手法が大きな注目を集めています。特に、絶縁膜を介して磁性体に电圧を加える手法は、半导体の电界効果型素子などに広く用いられているゲーティングと同様の手法であり、高速動作が期待でき、かつ半導体デバイスと融合した使い方ができる次世代の記録手法として、世界中で研究が盛んに行われるようになってきています。実際、上記の手法を用いることで、強磁性半导体や、ごく最近では強磁性金属においても磁化の方向がゲーティングにより制御できることが報告されるようになってきています。しかし、磁性体において最も基本的な物理現象の一つである、强磁性相転移を電圧で誘起することは、磁性半导体において低温で実現されているにすぎませんでした。

研究の概要

 今回、代表的な強磁性遷移金属であるコバルトの超薄膜に絶縁膜を介してゲート電圧を加えて、コバルト(以下Co)表面の電子濃度を変化させることで强磁性状态と常磁性状态の相転移を室温でスイッチできることを明らかにしました。強磁性金属の磁性を電気的にスイッチすることは世界で初めての成果です。

 今回作製した素子の模式図と観測された現象の概念図を図1aとbに示します。Coの超薄膜(図中の強磁性金属)、絶縁膜、ゲート電極からなる素子の上下に±10Vのゲート電圧を加えて、Coの磁化状態を観測しました。図1a中では省略されていますが、Co超薄膜はPtとTaの下地層を介してGaAs基板上に成膜されました。素子を作製する前に、磁化測定を行ったところ、膜は垂直方向に磁化しやすいことが確認されました。ゲート電圧を加えた時の磁化の外部磁界依存性を図2a、bに示します。図2aは310Kにおける±10Vのゲート電圧加えた時の磁化曲線(外部磁界は垂直方向に加える)です。両者とも角型の履歴特性(ヒステリシスループ)を示していますが、保磁力(反転磁界)がゲート電圧によって大きく変化していることが分かります。図2bは321Kにおける同曲線です。+10Vでは角型のヒステリシスですが、-10Vでは直線的な振る舞いに変化していることが分かります。詳しい調査により、この変化は强磁性相転移によって引き起こされていることが明らかになりました。図3は二つの試料(Pt膜厚が異なる)の強磁性転移温度のゲート電圧依存性です。各試料において、データ点より下の温度では磁石の状態ですが、データ点より上の温度では磁石の性質を失っていることを示しています。その境界を決める温度(データ点)が強磁性転移温度ですが、ゲート電界により明確に制御できていることが分かります。この結果は、室温付近で磁石の性質(つまりは磁力)を電気的にスイッチできることを示しています。

今后の展开

 この研究成果を用いることで、外部から磁界や电流を加えたり温度を変えたりすることなく磁石の性质を室温で电気的に制御できるようになりました。将来的には、消费电力の极めて小さな磁気记録メディアへの応用や、コイルを用いない电圧駆动式の磁界発生器などへの応用が期待されます。また、材料科学の観点からは、磁化の大きさや强磁性転移温度と原子1个当たりの电子数の関係に鋭く迫ることができるようになると考えています。

参考図

   

  1. 図1 (a)ゲート電圧で磁力をスイッチするための素子の模式図。(b)磁化の温度依存性。TCは强磁性転移温度を示す。ゲート电圧を印加することで、罢Cが変化する。

   

  1. 図2 (a)310Kでのゲート電圧印加下での磁化曲線。保磁力がゲート電圧により大きく変化している。磁化状態は異常ホール効果を用いて観測されている。 (b)321Kでの磁化曲線。正負のゲート電圧により、角型のヒステリシスから直線的なカーブへと大きな変化が観測されている。用いた試料のPt下地層の膜厚は1.1nm、Co層の膜厚は0.4nmである。

   

  1. 図3 強磁性転移温度のゲート電圧依存性。

用语解説

磁性半导体

半导体を母体とする磁性体のことです。强磁性を示す代表的な半导体として、骋补础蝉や滨苍础蝉に惭苍をドープした材料などが挙げられます。これらの材料は室温より低い温度で磁石になることが知られていますが、最近では罢颈翱2に颁辞をドープした酸化物半导体などで室温でも磁石の状态を保つことが报告されるようになってきています。

强磁性状态

一般的には物质が磁石の状态にあることを指します。原子スケールで见ると、隣り合う各原子のスピンが同一の方向を向いて整列し、全体として大きな磁気モーメントを持つ状态を指します。このとき、物质は外部磁场が无くても自発磁化を持つことができます。

常磁性状态

物质が磁石の状态を示さない状态にあることを指しますが、中でも、外部磁场が无いときには全体として磁化を持たず、磁场を印加するとその方向に弱く磁化する性质を示すときのことを指します。このとき、热ゆらぎによるスピンの乱れが强く、自発的な磁化方向の整列が无い状态です。

ゲーティング

半导体用语としては、一般的に电圧を印加して电子や正孔(キャリア)の流れを电気的に制御する事柄に対して用います。代表的な半导体デバイスの一つである电界効果型素子では、ゲート电极に电圧を印加することで、チャネルの半导体のキャリアを空乏させたり蓄积させたりすることで、伝导率を大きく制御し、スイッチング机能を実现させています。

强磁性相転移

一般的には、温度を変化させて、強磁性相と常磁性相の転移を引き起こすことを指します。今回の成果では、温度を固定したままで、電圧を印加することで强磁性相転移を引き起こすことに成功していることがポイントです。

  • 本成果は、以下の事业?研究プロジェクトによって得られました。
    JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ(個人型研究)
    研究領域:「ナノシステムと機能創発」(研究総括:長田 義仁 独立行政法人理化学研究所グループディレクター)
    研究课题名:「电界による磁化スイッチングの実现とナノスケールの磁気メモリの书込み手法への応用」
    研究期间:平成22年10月~平成26年3月
  • 本研究で使用した颁辞薄膜は日本电気株式会社より提供していただきました。

関连リンク

  • 论文は以下に掲载されております。
  • 以下は论文の书誌情报です。
    Chiba D, Fukami S, Shimamura K, Ishiwata N, Kobayashi K, Ono T.
    Electrical control of the ferromagnetic phase transition in cobalt at room temperature. Nature Materials. Published online: 02 October 2011 | doi:10.1038/nmat3130

 

  • 朝日新聞(10月3日 34面)、京都新聞(10月3日 22面)、産経新聞(12月13日 23面)、中日新聞(10月3日 32面)、日刊工業新聞(10月18日 23面)、日本経済新聞(10月3日 11面)、毎日新聞(10月3日 21面)および読売新聞(12月5日 22面)に掲載されました。