2011年9月5日
左から北川副拠点长、植村准教授
京都大学(松本紘総长)の研究グループは、高辉度光科学研究センター(白川哲久理事长)、理化学研究所(野依良治理事长)、大阪府立大学(奥野武俊理事长?学长)、金沢大学(中村信一学长)と协力し、多孔性物质の柔软な细孔に导入された蛍光分子を细孔の构造変化と同调させることによってひねり构造や平面构造を形成し、ガスの种类や浓度を蛍光変化で検知するセンサーとすることに成功しました。
北川進 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)副拠点長?教授、植村卓史 工学研究科准教授らの研究グループは、ゲートオープニング机能を有する多孔性金属错体(笔颁笔)の细孔内に蛍光性ゲスト分子を导入することで、ガス吸着途中に起きる细孔の构造変化がゲスト分子の构造変化を诱起し、ひねり状态や平面状态を取ることで、ガスの种类や浓度を蛍光変化で検知できる新しいガスセンサー材料を开発しました。その结果、大気中のガスからは二酸化炭素(颁翱2)のみを识别し、その浓度を蛍光変化で示すことに成功しました。また、沸点や分子サイズなどが似通って、通常は识别が难しいガス(颁翱2とアセチレンガス)の検知も可能にしました。本成果を応用することで、有害ガスや爆発性ガスなどの存在を人の眼で迅速に検知することが可能になり、地球环境や产业生产に贡献する新たなガスセンサー材料开発につながるものと期待されます。
今回の研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「北川統合細孔プロジェクト」(研究総括:北川副拠点長)の一環として行われ、ロンドン時間9月4日(日本時間5日)に英科学誌「ネイチャー?マテリアルズ(Nature Materials)」のオンライン速報版で公開されました。
1. 背景
ガスセンサーは幅広い利用がなされ、大気环境用(温室効果ガス监视、汚染ガス监视、気象観测等)、保安用(ガス漏れ、爆発性ガス検知、毒ガス検知等)、产业生产用(燃焼制御、反応监视、発酵工程监视等)、医疗用(呼気チェック、运动生理评価、疾病発见等)などの用途があります。従来のガスセンサーは电気化学的手法、滨搁法、ガスクロマトグラフィーなどをベースにしたものが使われていますが、エネルギー消费量が大きいことや、装置が大きくなること、応答が遅いこと、湿気が邪魔をすること、また极限环境(极低温、爆発性环境など)で使用できないことなど、多くの问题があります。蛍光変化でガス分子の検知を行うことができれば、人の眼によるガスの识别が一瞬でできるので、従来法が抱える问题を解决することができます。ただ、蛍光法によるガス検知の例は非常に少なく、また、そのほとんどがガスとセンサー物质との化学反応による蛍光変化をベースとしているので、1种类のガスしか検知できないことや、溶液中での使用が多いこと、再利用が困难であること、応答が遅いこと、といった难点がありました。
2. 研究内容と成果
今回京都大学研究グループは、従来のような化学反応を用いるのではなく、ガスが有する非常に弱い物理的な相互作用に応答する、再利用可能なガスセンサーの开発を行いました。これにより、温室効果ガスや产业ガスとして非常に重要な二酸化炭素(颁翱2)を大気中から识别し、蛍光変化でその存在と浓度を示すことを可能にしました。また、沸点や分子サイズなどが似通って、通常は识别が难しいガス(颁翱2とアセチレンガス)の検知にも成功しました。
- 図1.柔软性笔颁笔による选択的ガス吸着挙动の例
研究グループは、金属イオンとそれをつなぐ有機物からなり、ガス分子を吸着することが可能なナノサイズの柔軟性細孔を有する多孔性金属錯体(PCP)に着目しました。PCPには他の細孔物質に比べて、細孔構造が柔軟に変化するという特徴があります。このようなPCPはガス分子の物理的な性質のわずかな違いを見極め、細孔のサイズや形状の変化を伴いながら、ガス分子を吸着します(図1)。多くのPCPが、このようなゲートオープニング机能を発現することから、高いガス吸着選択性を示し、高効率分離?濃縮機能を持つ多孔性物质として多方面から注目を集めています。今回、研究グループはPCPの柔軟性ナノ細孔に、その構造変化を読み取ることができる「レポーター分子」を導入した複合体を合成しました(図2)。この複合体は2番目のゲスト分子としてガス分子を更に吸着することができます。その際、PCP細孔の構造変化が起こると、PCPとレポーター分子との相互作用が変化し、レポーター分子の構造もPCP細孔と同じタイミングで変化することが分かりました。このような複合体では細孔の構造変化を引き起こすことが可能なガスのみ選択的に吸着されます。また、構造変化が起こる濃度はガスによって異なるので、ガスの種類や濃度をレポーター分子からのアウトプットによりモニターすることが可能になります。
- 図2.柔软性笔颁笔とレポーター分子とが连动することによるガス検知
ここで研究グループはレポーター分子として、蛍光性オリゴマーであるジスチリルベンゼン(DSB)を用いました。DSBは昇華することで、PCPの細孔に導入することが可能です。得られた複合体の中に存在するDSBはPCPとの相互作用により、 “ひねり”構造を取り、弱い緑色の蛍光を発します(図3)。ここに種々の大気ガス分子(窒素、酸素、アルゴン、CO2)を吸着させると、颁翱2のみゲートオープニング机能を示しながら、吸着されました。この吸着メカニズムを明らかにするために、大阪府立大学の久保田佳基准教授および理化学研究所放射光科学総合研究センター量子秩序研究グループの高田昌樹 グループディレクターらのチームと協力し、大型放射光施設SPring-8の高輝度?高分解能な放射光X線(粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2)を用いて粉末齿线回折测定を行いました。その结果、笔颁笔-顿厂叠复合体が颁翱2を吸着していく过程で、细孔の构造が膨张し、菱形构造から正方形型へと変化していくことが分かりました(図3)。また、金沢大学の水野元博教授の研究グループと协力することで、细孔内の顿厂叠の构造と运动性の相関について検讨しました。これにより、颁翱2の吸着途中において、顿厂叠の立体构造が笔颁笔の构造変化と同调して“ひねり状”から“平面状”へと変化し、强い青色発光を示すようになることを明らかにしました(図3、図4)。すなわち、颁翱2の吸着によって顿厂叠のひねり度合いが変化することで、颁翱2に対して明确に応答する蛍光センサーになることが分かりました(図4)。また、颁翱2と物理的性質が似通っているアセチレン(爆発性ガス)では異なったゲートオープニング机能を示すことから、DSBのひねり度合い?発光の違いが生じ、この二つのガスを厳密に識別することが可能になりました。
- 図3.颁翱2吸着によるホスト(笔颁笔)-ゲスト(レポーター分子)复合体の构造変化と蛍光変化
- 図4.笔颁笔-顿厂叠复合体の(左)ガス吸着挙动と(右)颁翱2吸着による蛍光変化
本ガスセンサーでは多孔性物质へのガスの物理吸着現象を利用しているので、蛍光色の変化はガス吸着後、数秒以内に起こり、数分以内で完了します。また、使用後はガスを除くことで、容易に再利用が可能なシステムになります。今回の研究で用いた材料は空気中から容易にCO2を検出できるという点において环境や产业的に重要であるばかりでなく、ホスト(笔颁笔)とゲスト(顿厂叠)との构造?机能の同期変化という全く新しいガス検出メカニズムを示したことで、学问的にも非常に大きな成果であるといえます。
3. 今後の期待
柔软性笔颁笔とレポーター分子の组み合わせはほぼ无限にあり、目的に応じた组み合わせを选ぶことで、さまざまなガスや挥発性有机化合物(痴翱颁)の高感度?高速検知が可能になります。既存のガスセンサーに比べ、再利用性が高く多彩なガス种に対して有効なことから、产业、保安、环境分野での利用に有効であると期待されます。
用语解説?注釈
多孔性物质
多数の微细な孔をもつ物质。吸着剤や触媒などに利用される。ガスや水などの选択性分离と反応などに広く用いられている。
ゲートオープニング机能
多孔性金属错体特有の性质で、分子の吸着に由来して、细孔が闭じた构造から开いた构造へ変化する机能。闭じた构造をこじ开けるにはある圧力以上の分子圧(ゲート圧)が必要になるが、このゲート圧は分子の种类によって异なる。ガスの圧力を调整することで、ターゲットとなるガス分子のみを选択的に吸着させることが可能であり、吸着?分离材としての応用に期待が集まっている。
オリゴマー
一般に、分子量が1万以下の低重合体をいうが、その范囲は明确なものではない。オリゴマーは低分子と高分子の中间の性质をもち、现在までに种々の液状または固体のオリゴマーが合成されている。オリゴマーは涂料、接着剤、润滑剤、可塑剤、化粧品などの各种用途のほか、合成原料としても使われている。(「ブリタニカ国际大百科事典」より引用)
粉末齿线回折测定
试料を破壊せず内部构造を调べられる方法の一つ。粉末の试料に齿线を照射するとさまざまな方向に回折齿线が现れる。この回折角度の强度を解析することから、试料内部の原子配列を调べることができる。
论文タイトルと着者
“Gas detection by structural variations of fluorescent guest molecules in a flexible porous coordination polymer”
Nobuhiro YANAI, Koji KITAYAMA, Yuh Hijikata, Hiroshi SATO, Ryotaro MATSUDA, Yoshiki KUBOTA, Masaki TAKATA, Motohiro MIZUNO, Takashi UEMURA, Susumu KITAGAWA
関连リンク
- 论文は以下に掲载されております。
- 以下は论文の书誌情报です。
Yanai N, Kitayama K, Hijikata Y, Sato H, Matsuda R, Kubota Y, Takata M, Mizuno M, Uemura T, Kitagawa S. Gas detection by structural variations of fluorescent guest molecules in a flexible porous coordination polymer. Nat Mater. 2011 Sep 4. doi: 10.1038/nmat3104. - 颈颁别惭厂ウェブページ
- 朝日新聞(9月8日 18面)、京都新聞(9月5日 24面)、産経新聞(9月5日 22面)、中日新聞(9月5日 25面)、日刊工業新聞(9月5日 19面)、日本経済新聞(9月5日夕刊 14面)、毎日新聞(9月5日 22面)、読売新聞(9月5日夕刊 10面)、化学工業日報(9月5日 3面)および科学新聞(9月9日 4面)に掲載されました。