第25代総長 松本 紘
熊本市と本学の连携调印にあたり、心からお喜び申し上げるとともに、一言ご挨拶を述べさせていただきます。
京都大学の基本理念は、自由の学风を継承?発展させつつ、多元的な课题の解决に挑戦し、地球社会の调和ある共存に贡献することにあります。そのために、自由阔达な対话を尊重し、自主自立の精神を育んでまいりました。大学の使命の一つは、高度な教养と知识を培い、その伝承を通して教养豊かで人间性が高く责任を重んじる人材を育成することです。また二つ目の使命は、高い伦理性を备えた新しい知见を创造し、学际的に深く真理を探究することにあります。つまり、最先端かつ独创的な学术研究は、多様な教育を実现し、世界的に卓越した人材育成を可能とするものです。事実、本学は数多くの优秀な研究者や教养人を排出し、本学出身の多くの方々が国际社会において目覚ましい活跃を果たしておられます。この教育と研究を通じた社会贡献こそが、大学の第叁の使命であります。
本学では2008年4月1日に「野生动物研究センター」を発足いたしました。同センターは、野生动物の保全研究に焦点を当て、京都大学の一つの特徴である「フィールドワークに根ざした知の学统」を受け継ぎ、さらに「最新のライフサイエンス技术」をも统合した新たな学问领域の创出を目指しております。これは、优秀な人材育成と高度な学术研究を通じて社会贡献に寄与するという大学の使命を果たす一つの装置となり得るでしょう。
この度连携协定を结ぶことになりました熊本の地は、本学といささか无縁ではありません。「火の国」熊本のシンボルである阿苏には、本学理学研究科の附属施设「火山研究センター」がございます。同センターは、火山に関する研究?教育を目的に、1928年に大学初の火山研究所として设立されました。以来、80年以上にわたり阿苏火山をはじめ九州各地の火山を対象に火山に関する研究を続けるとともに、研究によって得られた成果を一般の方々に知っていただくための见学会などもおこなっております。また、本连携の中核となる野生动物研究センターは、有明海を望む叁角半岛に所在する株式会社叁和化学研究所チンパンジー?サンクチュアリ?宇土に寄附讲座を设け、本学の3名の教职员が常驻して、动物の饲育管理や福祉长寿に関する研究を进めております。また、そのサンクチュアリからは、近い将来、熊本市动植物园に6头のチンパンジーが譲渡されることも闻き及んでおります。このように、熊本と京都大学は、教育?研究活动を通じて长年にわたり协力体制を育んでまいりました。
ご存じのように、近年の自然环境は着しい変化を遂げ、そこに暮らす野生动物の生活スタイルにも大きな影响をおよぼしつつあります。本来、山奥が営みの场であったクマやイノシシが突然各地の市街地に姿を现し、大騒ぎに発展するニュースは记忆に新しいところです。その一方で、そうした野生动物が、実は絶灭の危机に濒しているという现実も悬念されます。地球上には多様な生物が生存していますが、约4,500种の哺乳类の20%が、また约9,500种の鸟类の10%以上が絶灭の危机に濒しています。おそらく、この数字は今后ますます増加することが予想されます。それは、私たち人类に対する警告なのかもしれません。野生动物が本来の姿で生活できる环境を取り戻すことこそが、人间が今后も地球上で生存し続けていく上での重要な手段なのです。
その一方で、私は危机的状况にある地球社会で人间が生き残っていくためには、最先端の科学技术を応用することも重要だと考えます。たとえば、私の専门は超高层大気圏物理学ですが、长年にわたって「宇宙太阳発电所」构想を推进しています。宇宙物理学と自然科学、一见まったく接点を持たないような印象を受けますが、地球で消费されるエネルギーの源を太阳系から得ることで地球环境が改善?维持され、そこに暮らす人间や野生动物の持続的な生存が可能となるでしょう。このように、学际的あるいは异分野の融合こそが、人间生存のための新たな展开を生み出すことは间违いありません。一つの山の顶上を目指す上では、さまざまなルートがあって良いのです。
このたび、熊本市と京都大学が、それぞれ动植物园と野生动物研究センターを中核として相互に连携?协力していくことは、まさに大学や动植物园の使命である地域贡献や地域活性をより一层进めることに繋がります。同市は、自然环境の荒廃が深刻化している状况を受け、「熊本市动植物园」の再编成整备を进めておられます。同园が生命の尊さや自然环境の大切さを理解できる环境教育の场として、また野生动植物の保全の场として担う役割は大きいでしょう。そして、野生动物研究センターが有する寄附讲座は、その地理的な利点から、今后双方が协力して进める多様な野生动物の実践研究を大きく推进させるだけでなく、职种や立场を超えた人々のネットワークの形成と文化の発展に寄与するものと确信しております。
このたびの连携が、动植物园は「自然への窓」として、大学は「自然や新たな学问分野への道先案内人」として、地球社会において重要な役割と责任を果たすことを愿ってご挨拶とさせていただきます。